あげる喜び、もらう喜びを体感するOSAGARI絵本ワークショップ|伊藤みずほさんに聴く(前半)

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おうちの本棚に、絵本はありますか? 

子どもが生まれる前は、絵本をもっていないおうちも多いでしょう。

自分が幼い時に読んでもらった絵本を本屋さんでみつけて、なつかしくて子どもにも読んであげたくて。お友達にプレゼントされて。児童館で読んでみていいなと思って。少しずつ、絵本が増えてきたりしますよね。

その中には、子どもの成長とともに、読まなくなった絵本もあるでしょう。その絵本たちに、もう一度命を吹き込んでみませんか。

今回ご紹介するのは、『OSAGARI絵本』のワークショップ。

「おさがり=おふる」ではなく、「前の持ち主の思い出が詰まった」という想いが込められています。このワークショップは、子どもも大人も楽しみながら、いろんな喜びを味わえます。

『OSAGARI絵本』(運営:株式会社ブギ)を主宰している伊藤みずほさんにお話を伺います。

本当にやりたいことを追求していった『OSAGARI絵本』

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-このチラシ可愛いですよねぇ。

ありがとうございます! レトロ印刷といって、版画みたいに1色ずつ刷って色を重ねる手法なんですよ。版ズレや掠れなども味の一つで、1枚ずつ違う質感を楽しめるんですよ。イラストは友人でイラストレーターの新谷麻佐子さんが描いてくれました。

こうして『OSAGARI絵本』を手のひらサイズで始めて1年。

2014年の秋に息子を出産して、産後半年くらいから始めたのですが、当初はこれもやりたい、あれもやりたいと、もっとたくさんの「やりたい」を抱えていました。産後ハイも手伝って、勢いで一歩進んでは壁にぶつかるというのを繰り返しながら、今は「限られた時間のなかで本当にやりたいこと」だけにそぎ落とされてきた気がします。

本の価値をもう少し高められないか

-『OSAGARI絵本』は会社が運営しているオンライン古本店『本棚お助け隊』からスピンアウトしたプロジェクトとのこと。『本棚お助け隊』では、全国のお客様から本を買い取り、インターネット上で販売されています。それに対して、『OSAGARI絵本』では、ワークショップの開催や地域活動への参加など、人とのリアルな触れ合いがメイン。「読み終わった本をお客様に届けること」はどちらも共通していますが、まったく違うアプローチですよね。どんな想いを持って始められたのでしょうか。

以前は語学系の出版社で編集者として働いていましたが、『本棚お助け隊』を運営する夫と出会い、一緒に仕事をするようになりました。でも、自分の中でこれでいいのかなという思いがずっとあって。インターネットでの古本販売は便利ですが、一方で、どうしても1円単位での価格勝負になってしまう。前の持ち主の足跡がわかるもの・・・例えば、少しでも折れや書き込みなんかが入ると評価も下がってしまうし。本づくりに携わってきた側としては寂しい部分がありました。

だから、本の価値をもっと高められるような、古本流通の在り方があっていいのでは、ということを感じていて。でも、やり方がわからない。

そんな時に子どもを授かって、数十年ぶりに絵本に親しむようになり、そのすばらしさに改めて気づかされた、ということがそもそものきっかけです。

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大人の本とは違う、絵本の世界

-絵本って他の本と違うんですか。

大人の本とは違う存在感があります。

特に長く愛されている絵本は、子どもが読んでも大人が読んでも、違った視点でおもしろい。そんなふうに、絵本って何歳になっても楽しめるものだから、手放すタイミングを見極めるのが難しいんですよね

-なるほど、確かに。うちの子は、もう4歳ですが、0歳時に読んだ絵本がまだあります。

子どもの成長とともに、絵本はどんどん量が増えてきますよね。それで、「もう3年くらい見向きもしないし、いいかな」なんてお母さんが処分しようとすると、子どもが「ヤダー」と抵抗する。本当はもう手放してもいいものなのに、人にあげる段階で急に惜しくなっちゃう。本棚はもういっぱいで、新しい絵本を入れるスペースもないのに。

そんな話をお母さんたちから聞いているうちに、この場面を見つめることで、子ども自身にも気づきがあるんじゃないか、と思ったんです。

「あげる喜び、もらう喜び」をカラダで感じる

もう自分は読まない絵本だけど、必要なお友だちにあげたら、すごく喜んでくれた。その笑顔を見たら、嬉しくなるじゃないですか。そこで、そのプロセスを何らかのカタチに出来ないか、と始めたのが『OSAGARI絵本』のワークショップです。

このワークショップは、「とある『絵本の国』でひっそりと開かれている」という設定になっていて、子ども自身に「あげる喜び・もらう喜び」をカラダで感じ取ってもらえるよう、随所に工夫を凝らしています。

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絵本の国はどんなところ?

-それでは、絵本の国をのぞいてみましょう。

①おうちに船長さんから絵本の国に招待状が届く

②読まなくなった絵本を1冊パスポートとしてもってくると、絵本の国に入れるよ。

③トンネルをくぐって絵本の国へ

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④船長さんのガイドで、創作活動スタート! 

このあと、子どもたちがわくわくするような、様々な「仕掛け」が船長さんから繰り出されます。子どもも大人も夢中になって、絵本をプレゼントするための「魔法の封筒」を作ります。

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最後に、出来上がった作品と絵本を交換します。

※“入国”時の「わくわく感」を大切にしているので、内容の詳細は秘密♪

子どもも大人も夢中になるしかけ

-招待状というところから、ワクワクしました!面白いですねー。

ワークショップでは絵本の国という「ファンタジー」をとても大事にしています。すんなりとその世界に入り込めるように、現実や日常を思い起こさせるものをなるべく見せないなど、環境作りも徹底しているんです。例えば、絵本の国が外から見えないように布で覆ったり、ティッシュ箱などのちょっとしたものも素敵にデコレーションしたり。

そして、用意するツールにもこだわっています。兄弟や親子で参加の場合、招待状は一つにまとめず、各人宛の封筒で郵送する。創作ワークで使用する素材も、例えば、色や質感の異なる何十種類もの紙や毛糸、発色にこだわったポスターカラーや全部形の違うオリジナルの消しゴムスタンプなどなど。内容は毎回少しずつ変えていますが、見て触れてわくわくするようなものを、グラフィックデザイナーの古城里紗さんが考えてくださっています。

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そんなふうにこだわって作り込んでいたら、お子さんの付き添いで来られた親御さんが、「これ、子どもじゃなくて私が参加したい!」と。そんなこんなで、当初子どものみだった対象者を「4歳以上で絵本が大好きなお友だち」と広げたのです(笑)。大人の方も夢中になって作っていますよ。直近の開催時は、子どもはパパに預けて、大人だけで参加された方も数名いらっしゃいました。

自然に楽しいと思ってもらえるように

-この封筒づくりはアートのワークショップみたいですね。

そうですね。これだけを見た人には、よく「アートのワークショップなんですね」と言われます。それも大事な要素ですが、実はその先にある「『あげる喜び・もらう喜び』を味わってもらう」ことが、このワークショップの神髄です。会場の作り込みも、こだわった創作ワークも、全てそのためのもの。子どもに「人に物をあげるっていいよね!」と言葉で説明するのではなく、体験を通して湧き上がってくるものを、大切にしてほしいから。

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-最初にキレイな封筒をもらう、本をもらう、最後にプレゼント交換で創った封筒をあげる、もらう。そして更に絵本をもらう。「あげる喜び・もらう喜び」がたくさん詰まっていますね。

最初に宝箱からプレゼントする絵本も、事前に好みをきいて、一人ひとりに合わせた本を選んでいます。プレゼントの封筒も一人ひとり違うデザインなんですよ。

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泣いていた子が、最後はニコニコする

子どもたちは「あげたりもらったりする喜びを感じよう」なんて全然考えていないですよ。でも、以前は絵本を1冊もあげたくない、イヤだイヤだと言っていた子が、招待状をもらったとたん、「どんな絵本を持っていこうかな」と真剣に、持っていく絵本選びをする。そして、ワークショップの最後には、ニコニコして自分が作った大作をお友だちにあげ、さらにはお友達がつくってくれた力作を持ち帰って、大事におうちに飾っている。頭で理解するんじゃなく、気付いたら「あげる・もらう」を体感している。それは一つの成果かなと。

-「あげる喜び・もらう喜び」のために、ここまでこだわって場をつくり上げるのがすごいなと思いました。それくらい「あげる喜び・もらう喜び」を大事にしたい、という気持ちが伝わってきました。本を作っていた側として、本を大事にしてほしい、という気持ちが一番強いのでしょうか。

そうですね。1冊の本には、本当にたくさんの人の思いや叡智が詰まっている。特に自分が企画段階からかかわった本を校了するときは、我が子を世の中に送り出すような、そんな心境になります。だから、ほかの本も大事にしていきたい。

本棚お助け隊でも、再販するのに難しい本は、最終的には「紙」として再生紙になってしまいますが、私はできるだけ本の形で残したいと思う。そういった視点は、新しいサービスを考えるうえでの拠り所にもなっているし、ひとつ自分の強みかもしれません。

―話を聞けば聞くほど、絵本の国へ行ってみたくなりました。

後半はみずほさんご自身について、今後の『OSAGARI絵本』についてうかがいます。

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