【絵本ができるまで#1】長野ヒデ子さんに聴く「ふしぎとうれしい」お母さんの絵本

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皆さんは絵本を選ぼうとする時、どんな基準で、どんな思いで手に取っていますか?

子どもに教育的に効果がありそう?

子どもが楽しんでくれそう?

このコラムではこれから、作家さんや翻訳者の方など作り手の思いを掘り下げてお伝えすることで、絵本を通した育児に少しの潤いと、読み聞かせる大人への癒しになるようなきっかけ作りをしていけたらと思っています。

お母さんやお父さんがしぜんと読んであげたくなるような、思わず手に取りたくなるような、そんな絵本や絵本にまつわる情報をお届けしていきます。

第一回は、鎌倉ブックカーニバル本談会、絵本作家長野ヒデ子さんのお話をお届けします。

鎌倉ブックカーニバルとは、毎年初夏の鎌倉で開催されている本のイベントです。

文豪の町として知られている古都鎌倉には、一風変わったコンセプトの書店や古本屋、そして絵本専門店も多くあるのをご存じですか?

鎌倉駅前から由比ガ浜通りにかけての書店やカフェが参加してスタンプラリーを行ったり、2か所の公会堂では一箱古本市や読み聞かせライブなどを開催します。本好きの大人たちにはたまらない一日なんですよ。

古民家で聴く絵本誕生のお話

初夏の風が優しく吹き込む古民家の一室で待つこと数分、絵本作家の長野ヒデ子さんははにかみながら現れました。

鎌倉ブックカーニバル 本談会『ふしぎとうれしい絵本と紙芝居』

登壇:長野ヒデ子さん

長野ヒデ子さん

(撮影・品田博美)

代表作

  • 「とうさんかあさん」
  • 「せとうちたいこさんシリーズ」
  • 「おかあさんがおかあさんになった日」など

長野ヒデ子さんは柔らかい雰囲気の、飾ったところの無い上品で素朴なおばあちゃまという印象でした。話し方が優しくて、ずっと聞いていたくなるような声で訥々と、時にお茶目な表情でお話して下さいました。

子どもに早く会いたくなった。2つのエピソード

絵本作家になったきっかけや、代表作にまつわるエピソードなどをお話されましたが、中でも印象的だったことが二つありました。

ひとつめは、「こどもがでてこない、お母さんの絵本」がなぜこどもにも人気がでたのか?というお話

もうひとつは、「ただただ楽しい」ゆるいお話誕生に込められた、育児への想いについて

私はこのお話を聞いた後、夫に預けていた子どもに早く会いたくなって、寄り道もせず足早に帰りました。

「お母さんが楽しそうに、気楽にしているのが一番」という長野ヒデ子さんの一貫したメッセージが絵本からも伝わってくるようで、少し億劫な義務となっていた絵本の読み聞かせが、早く読んであげたい、読んであげることで自分も癒されたい、という思いに変わったんです。

それでは、この2つについて詳しくご紹介していきますね。

子どもが何度も読みたがる「おかあさんがおかあさんになった日」

「おかあさんがおかあさんになった日」は第41回サンケイ児童出版文化賞を受賞した長野ヒデ子さんの代表作の一つです。

この作品は、子ども向けの題材が多い絵本の中で、母親に焦点を当て、読み聞かせるお母さん自身が、ここまで来る道のりを振り返ることができる内容です。

そこに子どもはほとんど出てこない、お母さんの本なのに、出版してみると、子どもたちが気に入って何度も繰り返し読んでくれていると知ったそうです。

なぜなんだろう?と不思議に思った長野さんが、偶然発達心理学の先生にその話をしたところ、「それは当然ですよ」とあっさり。

「子どもは、生まれる話が好きです」

「自分が祝福されて生まれてきたことをどこかで確認したいといつも思っているものなんですよ」

絵本が子どもにもたらす心の栄養には、そういう一面もあるのですね。

この本は英訳もされ、海外でも高い評価を得ています。

英訳はアーサー・ビナード氏。とても内容を気に入って、自分が出産したいぐらい(男性です)の気分だったそう。

ご自身の家族にも出産の様子を聞きながら英訳に取り組んでくれたそうです。

長野さん曰く「とても素直な英語で」訳されています。そう聞くと英語版も読んでみたくなりますね。

 

お母さんの「気楽さ」が子どもの心をほぐす

次に、鯛のおかあさんがいろんなところへ遊びに行く「せとうちたいこさんシリーズ」について。

ここでへえ〜!と思ったのは、たいこさんシリーズの誕生秘話。

長野さんご自身が出産を経験したり、取材として多くの出産現場に立ち会ってみて、

「子どもは何も教えなくても自分の力で上手に生まれてくる。」

「もしかすると、子どもは善悪やいろんなことを、本質的にはちゃんと分かっているのかも」

と実感されたそうです。

だから、教訓的な絵本ばかりではなくて、「ただただ楽しい、面白い」と子どもが感じられる絵本がもっとあってもいいじゃないか、と。

子どもを置いてどんどん好きな場所に自由に遊びに行ってしまう鯛のお母さんのゆる〜い絵本ですが、長野さんが伝えたいのは、だからどうとかじゃなく、子どもにはとにかく純粋に楽しんでほしい。

そして、お母さんには思い詰めず気楽に過ごしてほしい。お母さんが楽しそうに笑顔でいることが一番大切、という思いなんですね。

もっと、気楽に…絵本と、こどもに向き合える

確かに、子育てしてると母親はいつも緊張したり、こうあらねばならない、と思い詰めたり息が詰まりそうになってくることが多々ありますよね。

そういう中で、「絵本の読み聞かせが義務になってしまう」「絵本の教育的効果ばかり気にしてしまう」といったお母さんも多いのではないでしょうか。

それって絵本の持つ本来の魅力や読み聞かせの本質的な目的を失ってしまってもったいないことだと思うんです。

こんな作家さんの思いや誕生秘話を聞けると、「あ、そんな感じでいいんだ!」と胸のつかえが取れる思いがして、気楽に絵本を通して子どもと向き合えるようになるのではないでしょうか?

もっと気軽に絵本に向き合うきっかけに

もっと気軽に絵本に向き合うきっかけに

©カメセキトモコ

読み聞かせをしてみて。「涙が出ちゃうよ~」長男の変化

実は今回、たまたま鎌倉在住の絵本作家さんの話を間近で聞ける機会があると知って迷わず申し込んだのですが、長野ヒデ子さんの本として意識して著作を読んだことは無く、代表作も失礼ながら存じ上げませんでした。

紙芝居の普及にも力を入れておられるそうで、いくつか紹介された紙芝居の方が、「あ!見たことある」「この話は長野さん作だったんだ!」と知るぐらい。

でもこのお話を聞いて、その足で会場で販売されていた「おかあさんがおかあさんになった日」を購入しました。

今や恐竜に夢中で最近あまり普通の絵本を読みたがらなくなってきた長男に、半ば無理矢理、寝る前に読み聞かせたところ、意外なぐらい興味津々な反応。

その後少し、長男が生まれてきた時のことを話して、

「あなたが生まれてきてくれなかったらお母さんはお母さんになれなかったんだよ。あなたのおかげでお母さんになれた。生まれてきてくれてありがとう」

なんて、普段なかなか言うきっかけも無いしちょっと恥ずかしいような言葉が自然に口をついて出てきました。

すると長男も長男で、

「そんなこと言われたら涙が出ちゃうよ〜」と本当にちょっと涙ぐみながら、いつもよりも安らかにすーっと眠りにつきました

次男が生まれて3ヶ月、ちょっと赤ちゃん返りで心が荒れていた長男と、そんな話をするきっかけを絵本がもたらしてくれて、子どもたちが寝付いた後も、しばらく感動の余韻に浸った夜でした。

いつもより安らかに眠りにつきました

いつもより安らかに眠りにつきました

©カメセキトモコ

想いを知ること、絵本との距離を変える。

いかがでしたか?

絵本の作り手さんの思いを直接知る機会ってあまり無いですよね。

何も知らずに本屋さんの平積みからパッと目についた絵本を手に取るのもいいけれど、こんな思いを知って読むと、絵本との距離がぐっと近くに感じられませんか?

親が癒される絵本は、しぜんと何度も手に取るようになります。

子どもは、親が何度も読んでくれる絵本に思い出を作ります。

そんな絵本との出会いのきっかけが、このコラムになれば幸いです。

ちょっと子どもとの関わりに疲れちゃったな、ひと息つきたいな。。。

そんな時、さらりと読んでみてくださいね。

文・イラスト カメセキトモコ

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